AI Overviewsオプトアウト機能とCMA規制の全体像|日本への波及可能性を読む
英国CMAが2026年1月に提案しGoogleへ義務づけたAI Overviewsオプトアウト規制の経緯を整理。日本新聞協会の声明や公正取引委員会の実務との接点から、日本への波及シナリオを解説します。
目次(40項目)
- はじめに
- CMAはなぜGoogleに介入したのか:戦略的市場地位という前提
- SMS指定という制度設計
- 措置パッケージの四本柱
- 報復禁止条項が持つ意味
- 発効スケジュールと実装の現在地
- 二段階の発効時期
- ドメイン単位とページ単位を分離した意義
- 現時点で英国限定という制約
- Google側の対応:規制への迎合と実装の限界
- 迎合と抵抗の同時進行
- クローラー制御の一元化問題
- 日本新聞協会の声明:独禁法の観点からの問題提起
- 2026年4月20日の声明の骨子
- CMAの決定を引用した論理構成
- 公正取引委員会の実務との接点
- EU・他地域の動向との比較:規制の連鎖は起きるか
- デジタル市場法(DMA)との関係
- 日本が「規制なき先行機能提供地域」になる可能性
- 日本の事業者・パブリッシャーへの実務的な影響シナリオ
- シナリオ1:規制なき機能提供が先行する場合
- シナリオ2:日本版の法制度が整備される場合
- 交渉力という観点の重要性
- 事業者が今から取るべき備え
- 引用実態の可視化を先行させる
- 業界団体の動向を継続的に追う
- 交渉材料としてのデータ整備
- 複数の制御手段を並行して理解しておく
- よくある質問
- Q1. CMAの措置はいつ提案され、いつ発効しますか?
- Q2. AI Overviewsのオプトアウトと通常検索の順位はどう関係しますか?
- Q3. 日本にも同様の規制はありますか?
- Q4. Googleは日本にもこの設定を展開する予定はありますか?
- Q5. CMAの措置パッケージにはオプトアウト以外にどんな内容が含まれていますか?
- Q6. ドメイン単位のオプトアウトとページ単位の制御はどう違いますか?
- Q7. 日本新聞協会の声明はどのような法的根拠に基づいていますか?
- Q8. パブリッシャーはCMAの措置をどう活用すべきですか?
- Q9. 英国以外でCMAに類似した規制の動きはありますか?
- 関連用語
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AI Overviewsオプトアウト機能とCMA規制の全体像|日本への波及可能性を読む
この記事の結論: 英国CMAは2026年1月28日、Googleの一般検索サービスに対する措置パッケージを提案し、その中核にAI Overviews・AI Mode・Gemini・Vertex AIを横断するコンテンツ利用のオプトアウト権を据えた。単なる機能追加ではなく、DMCC法に基づく行為要件として法的拘束力を持つ点が既存の任意設定と根本的に違う。主要義務は2026年12月、ページ単位のグラウンディング制御は2027年3月に発効予定であり、まだ実装途上にある。日本には同種の枠組みは存在しないが、日本新聞協会が2026年4月にCMAの決定を引きながら「優越的地位の濫用」に相当すると声明を出しており、独占禁止法の実務を通じた波及ルートが現実味を帯びつつある。事業者が今なすべきは制度の完成を待つことではなく、引用実態の把握と交渉材料の整備を先んじて進めることにある。
最終更新日: 2026年7月25日
はじめに
規制の話は退屈だと切り捨てられがちだが、今回ばかりは事情が違う。Googleが自社の判断だけでAI検索の設計を変えられる時代は、英国という一つの法域で終わりを告げた。
きっかけを作ったのは英国の競争・市場庁、通称CMAである。2026年1月28日、CMAはGoogleの一般検索サービスに対し、デジタル市場競争消費者法(DMCC)に基づく措置パッケージを提案した。提案の柱がAI Overviewsからのコンテンツ・オプトアウト権であり、これがのちにGoogle自身のSearch Console実装や日本新聞協会の声明にまで波及していく発端になる。
本サイトの別記事「Search Console 生成AIオプトアウト設定とは」では、Googleが実装した設定画面の使い方と実務判断に焦点を当てた。本稿はそれとは異なる角度、すなわちこの設定を生んだ規制そのものの構造、義務の射程、そして日本の事業者にとっての波及シナリオを掘り下げる。設定の押し方を知りたい読者は前掲記事へ、なぜこの規制が生まれ日本にどう影響しうるかを知りたい読者は本稿へ、という住み分けである。
法規制の話を敬遠したくなる気持ちは理解できるが、ここで押さえておくべき事実は単純だ。CMAの措置は「世界初」の枠組みであり、後追いする法域が現れる可能性を常に含んでいる。日本の事業者にとって、この規制がいつ・どんな形で自分たちの足元に届くのかを見極める作業は、SEOやLLMOの実務判断と同じ重みを持ち始めている。
CMAはなぜGoogleに介入したのか:戦略的市場地位という前提
SMS指定という制度設計
CMAの介入を理解する出発点は、DMCC法が定める「戦略的市場地位(Strategic Market Status、SMS)」という枠組みだ。この制度の要点は、企業の行為に違法性があったと立証しなくても、市場での地位が一定基準を満たせば指定でき、指定された企業には拘束力のある行為要件を課せるという点にある。
Googleは英国の一般検索市場で9割超のシェアを握っており、2025年10月にSMS事業者として指定された。この指定を受けて、CMAは2026年1月28日に具体的な行為要件の提案を公表し、パブリック・コメントの手続きを経て6月に確定させた。立証責任を負わずに規制できるこの制度設計こそが、CMAの動きを「交渉」ではなく「命令」として機能させている理由である。
措置パッケージの四本柱
CMAが提案したパッケージは、AI Overviewsのオプトアウトだけを扱っているわけではない。実際には四つの要素で構成されている。
- AI機能からのコンテンツ・オプトアウト: AI Overviews、AI Mode、Geminiアプリ、Vertex AIを横断してコンテンツ利用を拒否できる権利
- 報復禁止条項: オプトアウトを選んだパブリッシャーの通常検索順位を下げることを明示的に禁じる
- アトリビューションの明確化: AI生成回答内で出典への直接リンクを義務づける
- 検索エンジン選択画面の法制化: AndroidとChromeにおける検索エンジンの選択画面表示を義務化し、検索データのポータビリティも確保する
このうち日本の議論で頻繁に引用されるのは1と2だが、3と4も含めた全体像を押さえておかないと、CMAが目指す「パブリッシャーの交渉力回復」という狙いを見誤る。
報復禁止条項が持つ意味
数ある要素の中でも、実務的な重要度がひときわ高いのが報復禁止条項である。これまでパブリッシャーが「AI学習には使ってほしくないが通常検索には出たい」という要求を持っていても、事実上それは選べない二択だった。クローラー制御が通常検索とAI検索で同一であるため、AI利用を拒否すれば通常検索からも姿を消すリスクを負っていたからだ。
報復禁止条項は、この「拒否すれば損をする」という構造そのものを法で禁じた点に意義がある。オプトアウトを選んでも通常検索の順位を下げてはならないという縛りがあって初めて、パブリッシャーは実質的な選択権を得る。裏を返せば、この条項がなければオプトアウト権は名目だけの制度に終わっていた可能性が高い。
発効スケジュールと実装の現在地
二段階の発効時期
CMAの行為要件は一括発効ではなく、二段階に分けて実装される計画になっている。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年10月 | CMAがGoogleを一般検索でSMS指定 |
| 2026年1月28日 | CMAが措置パッケージを提案・公表 |
| 2026年6月3日 | Googleが Search Console に生成AIオプトアウト設定を先行実装(英国の一部サイト向け) |
| 2026年6月17日 | 上記設定の効力発生 |
| 2026年12月 | 主要な行為要件(ドメイン単位のオプトアウト・報復禁止・アトリビューション)の発効予定 |
| 2027年3月 | ページ単位のグラウンディング制御の発効予定 |
この二段階構成が示しているのは、CMAが求めているものがドメイン単位の粗い制御では終わらないという点だ。2027年3月に予定されるページ単位の制御が実現すれば、パブリッシャーは「このページは通常検索に出してよいが、AI回答の根拠情報としては使わせない」という粒度での意思表示ができるようになる。これはコンテンツの一部だけを収益源として保護したい事業者にとって、ドメイン単位のオプトアウトよりはるかに実務的な選択肢になる。
ドメイン単位とページ単位を分離した意義
なぜCMAはわざわざ二段階に分けたのか。理由は実装の複雑さにある。ドメイン単位のオプトアウトはSearch Consoleの設定画面一つで完結するが、ページ単位のグラウンディング制御は、Googleの検索インデックスとAI回答生成パイプラインの内部で「どのページをどの回答の根拠にしたか」を追跡し、個別に除外できる仕組みを要求する。技術的な難易度が桁違いに高いため、先に対応しやすいドメイン単位を発効させ、後から精度の高い制御を追加する順序になったと見るのが自然だ。
現時点で英国限定という制約
2026年7月時点でこの一連の制御は英国の一部サイトオーナーにのみ提供されている。Googleは段階的な展開を進めていると説明しているが、グローバル展開の具体的な日付は示していない。CMAの行為要件自体が英国国内法に基づくものである以上、Googleが法的に他地域へ展開する義務を負っているわけではない点は留意しておく必要がある。
Google側の対応:規制への迎合と実装の限界
迎合と抵抗の同時進行
Googleの対応を一言で表すなら「迎合しつつ範囲を絞る」である。Search Console への設定追加という形で規制に応じる姿勢を見せる一方、提供範囲を英国の一部サイトに限定し、グローバル展開の予定も明言しない。この慎重さは、規制対応コストを最小限に抑えたいという合理的な企業行動として理解できる。
クローラー制御の一元化問題
日本新聞協会が指摘しているように、現状のクローラー制御は通常検索とAI検索で本質的に同一である。つまりGoogleが用意した「AI機能だけのオプトアウト」は、内部的にはAI回答生成時に特定コンテンツを参照しないよう除外するフィルタリング処理であって、クロール自体を止める仕組みではない。この設計は、パブリッシャー側から見れば「本当に使われていないのか検証できない」という不透明性を残す。
Search Consoleの生成AIパフォーマンスレポートにクリック数やクエリ別内訳が含まれていないという制約も、この不透明性を助長している。オプトアウトの効果測定ができなければ、パブリッシャーは自分たちが得た権利が実際に機能しているかどうかを確かめる術を持たない。
日本新聞協会の声明:独禁法の観点からの問題提起
2026年4月20日の声明の骨子
日本国内でこの規制動向に最も踏み込んだ反応を示したのが日本新聞協会だった。2026年4月20日に公表された「AI検索サービスに関する声明」は、GoogleのAI Overviews・AI ModeにおけるRAG(検索拡張生成)技術を用いたニュースコンテンツの無断利用を問題視している。
声明の論理構成は次のようなものだ。権利者がAI検索での利用を拒否しようとしても、クロール制御が通常検索とAI検索で同一であるため、事実上「拒否すれば通常検索からも排除される」という不利益を受け入れない限り選択できない。これは独占禁止法が禁じる「優越的地位の濫用」に該当しうる、というのが新聞協会の主張である。
CMAの決定を引用した論理構成
注目すべきは、この声明がCMAの2026年1月の決定を明示的に参照している点だ。新聞協会は、CMAが「権利者に十分な選択肢が与えられていない」と認定した点を引き合いに出し、日本でも同種の枠組みを導入するよう国に求めている。具体的には著作権法の改正、およびオプトアウト拒否への対応を義務づける法制度、知的財産保護に関する原則コードの早期整備を要請している。
これは単なる海外事例の紹介ではなく、海外の規制決定を国内の法制度改正論議に直接接続する動きだ。CMAの措置が「英国限定の話」で終わらず、日本の業界団体の政策要求における参照点として機能し始めていることを示している。
公正取引委員会の実務との接点
新聞協会の主張が独占禁止法の「優越的地位の濫用」規制に依拠している点は重要だ。日本の独禁法は、取引上の地位が相手方に優越している事業者が、その地位を利用して相手方に不利益を与える行為を規制している。GoogleとWebパブリッシャーの関係において、検索トラフィックへの依存度の高さゆえに「拒否すれば実質的な不利益を受ける」という構造が成立するなら、これは独禁法の執行対象になりうる論点だ。
公正取引委員会がこの論点をどう扱うかは未確定だが、デジタルプラットフォーム事業者に対する優越的地位濫用規制は近年強化されてきた分野であり、海外の規制動向が国内の執行方針に影響を与える前例は珍しくない。CMAの決定が公正取引委員会の実務上の判断材料の一つになる可能性は、看過できない波及ルートである。
EU・他地域の動向との比較:規制の連鎖は起きるか
デジタル市場法(DMA)との関係
英国のDMCC法とEUのデジタル市場法(DMA)は、どちらもプラットフォーム事業者に行為義務を課す枠組みという点で共通している。ただしDMAはEU域内の「ゲートキーパー」指定事業者を対象とする制度であり、AI検索固有の措置を明示的に定めているわけではない。とはいえ、CMAが切り開いた「AI機能からのコンテンツ・オプトアウト」という概念が、DMAの執行実務や今後の改正論議に影響を与える可能性は十分に想定される。
Googleにとって、地域ごとに全く異なる実装を維持し続けることは運用コストの観点から非効率だ。英国向けに構築した仕組みをベースに、EUや他地域向けの類似機能を後追いで展開する方が合理的という判断が働きやすい。規制がない地域にまで自発的に展開するインセンティブは薄いものの、複数地域で同種の規制が積み重なれば、グローバル共通仕様への収斂が起こりやすくなる。
日本が「規制なき先行機能提供地域」になる可能性
考えられるシナリオは大きく二つに分かれる。一つは、日本に同種の法規制が整備されるのを待たずに、Googleがグローバル展開の一環として日本にも設定を提供するケース。もう一つは、日本新聞協会が求めるような法制度整備が先行し、規制圧力を受ける形でGoogleが対応するケースだ。
前者は「規制なき先行機能提供」であり、パブリッシャー側に交渉力の裏付けがないまま設定だけが提供される形になる。後者は英国型に近く、法的な後ろ盾を伴う分だけ実効性が高い。現時点でどちらに転ぶかは見通せないが、日本新聞協会の声明が法改正を明示的に求めている以上、業界団体としては後者を志向していると読むのが自然だ。
日本の事業者・パブリッシャーへの実務的な影響シナリオ
シナリオ1:規制なき機能提供が先行する場合
Googleがグローバル展開の一環として日本にもオプトアウト設定を提供した場合、法的な後ろ盾のない任意設定として扱われる。この場合、報復禁止条項に相当する保護がないため、オプトアウトを選んだサイトの通常検索順位が実際には維持されるのか、公式説明と実態が食い違わないか、日本の事業者は自ら検証する必要が生じる。
シナリオ2:日本版の法制度が整備される場合
独占禁止法の運用強化、または新法の制定によって英国型の枠組みが導入された場合、報復禁止・アトリビューション義務・ページ単位の制御まで含めた包括的な保護が期待できる。ただしこの道筋は法改正を要するため、実現には数年単位の時間がかかる可能性が高い。CMAの主要義務発効が2026年12月であることを踏まえても、日本での法制度整備が同時並行で進むとは考えにくく、現実的には数年の遅れを見込むべきだ。
交渉力という観点の重要性
いずれのシナリオでも共通して言えるのは、CMAの措置が本質的に目指したのは「パブリッシャーがGoogleと対等に近い立場で交渉できる状態」だという点である。オプトアウト権そのものよりも、それを背景にライセンス料や利用条件を交渉できる立場を得られるかどうかが実利になる。
日本の事業者にとって、規制の到来を待つだけでは交渉力は生まれない。自社コンテンツがAI検索でどれだけ引用され、どれだけの価値を生んでいるかを定量的に把握しておくことが、将来オプトアウトという選択肢が現実になったときの判断材料になる。この観点から、AI引用率のような指標を日常的に追跡しておく意義は大きい。
事業者が今から取るべき備え
引用実態の可視化を先行させる
規制や設定の到来を待つ前に着手できることは多い。まず自社コンテンツが主要なAI検索エンジンでどの程度引用されているかを可視化する作業から始めるべきだ。引用がほぼゼロの状態でオプトアウトを検討しても得るものはなく、逆に主要な流入源になっている事実に気づかないまま将来の設定を無自覚に操作すれば損失を招く。
業界団体の動向を継続的に追う
日本新聞協会のような業界団体が法改正を求める動きは、単独の事業者では動かせない政策論議のレバーになる。ニュースメディアに限らず、コンテンツ産業に属する事業者は、こうした団体の声明や公正取引委員会の執行方針の変化を定点観測しておく価値がある。規制の芽は往々にして業界団体の声明という形で先に姿を現す。
交渉材料としてのデータ整備
将来的にオプトアウトが交渉カードとして機能する場面に備え、自社コンテンツの利用実態・引用頻度・流入貢献度を数値として記録しておくことが望ましい。感覚的な「AIに利用されている気がする」ではなく、具体的な数字を持って交渉に臨めるかどうかが、規制が整備された後の実利を左右する。
複数の制御手段を並行して理解しておく
CMAの規制はGoogleの検索プロダクトに限定された話であり、ChatGPTやPerplexityなど他社のAI検索エンジンには及ばない。robots.txtによるクローラー単位の制御やllms.txtのような新興の枠組みも含めて、プラットフォームごとに異なる制御手段を横断的に理解しておく必要がある。単一プラットフォームの規制対応だけに気を取られていると、他のAI検索経由での利用実態を見落とすことになりかねない。
よくある質問
Q1. CMAの措置はいつ提案され、いつ発効しますか?
提案は2026年1月28日、主要な義務の発効予定は2026年12月です。ページ単位の制御は2027年3月発効予定とされています。
CMAは2025年10月にGoogleを一般検索サービスにおける戦略的市場地位(SMS)事業者として指定し、この指定に基づいて2026年1月28日に措置パッケージを提案しました。パブリック・コメントの手続きを経て6月に内容が固まり、Googleは同月3日にSearch Consoleへ先行実装を行いました。ただしこれは英国の一部サイト向けの先行対応であり、CMAが求める主要な行為要件そのものの発効は2026年12月、さらに精度の高いページ単位のグラウンディング制御は2027年3月の発効が予定されています。まだ制度全体が完成しているわけではない点に注意してください。
Q2. AI Overviewsのオプトアウトと通常検索の順位はどう関係しますか?
無関係になるよう法で担保されています。CMAの措置には、オプトアウトを選んだパブリッシャーの通常検索順位を下げることを禁じる報復禁止条項が含まれています。
この条項がある背景には、従来クローラー制御が通常検索とAI検索で同一だったため、AI利用を拒否すれば通常検索からも排除されるリスクを事業者が負っていたという構造上の問題があります。報復禁止条項によって、この「拒否すれば損をする」という力学そのものが法的に禁じられました。ただし条項が実効的に機能しているかどうかを検証する仕組みはまだ整備途上であり、Search Consoleの生成AIパフォーマンスレポートにクリック数やクエリ別内訳が含まれていない現状では、パブリッシャー側が独自に効果測定するのは容易ではありません。
Q3. 日本にも同様の規制はありますか?
2026年7月時点で、CMAのSMS指定に相当する法制度は日本に存在しません。ただし日本新聞協会が独占禁止法の観点から問題提起を行っています。
日本新聞協会は2026年4月20日の声明で、GoogleのAI検索サービスにおけるクロール制御の一元化構造を「優越的地位の濫用」に該当しうると指摘し、CMAの2026年1月の決定を引用しながら、著作権法の改正や知的財産保護の原則コード整備を国に要請しています。これは業界団体による政策提言であり、法制度そのものが動いたわけではありません。公正取引委員会が実際にこの論点をどう扱うかは未確定であり、法制度化には数年単位の時間を要する可能性が高いと見るべきです。
Q4. Googleは日本にもこの設定を展開する予定はありますか?
具体的な日付は公表されていません。現時点で提供対象は英国の一部サイトオーナーに限定されています。
Googleはグローバル展開の可能性に言及していますが、これは規制対応の義務としてではなく、地域ごとに別実装を維持する運用コストを避けたいという企業側の合理性に基づくものと考えられます。CMAの行為要件は英国の国内法に基づくため、Googleが日本を含む他地域に法的に展開する義務を負っているわけではありません。展開があるとしても、CMAの主要義務が発効する2026年12月以降、実装が安定してからになる可能性が高く、日本での提供時期は不透明なままです。
Q5. CMAの措置パッケージにはオプトアウト以外にどんな内容が含まれていますか?
報復禁止条項、アトリビューションの明確化義務、AndroidとChromeにおける検索エンジン選択画面の法制化が含まれます。
オプトアウトだけが注目されがちですが、CMAの提案は四つの柱で構成されています。一つ目がAI Overviews・AI Mode・Geminiアプリ・Vertex AIを横断するコンテンツ利用のオプトアウト権、二つ目がオプトアウトを理由に通常検索順位を下げることを禁じる報復禁止条項、三つ目がAI生成回答内での出典への直接リンクを義務づけるアトリビューション要件、四つ目が検索エンジンの選択画面表示の法制化と検索データのポータビリティ確保です。パブリッシャー保護に直結するのは前者三つですが、四つ目の検索エンジン選択画面もGoogleの市場支配力に対する構造的な介入という点で連動しています。
Q6. ドメイン単位のオプトアウトとページ単位の制御はどう違いますか?
ドメイン単位はサイト全体を対象とする粗い制御、ページ単位は個別ページを対象とする精緻な制御です。前者は2026年12月、後者は2027年3月の発効が予定されています。
ドメイン単位のオプトアウトはSearch Consoleの設定画面一つで完結する比較的単純な仕組みですが、ページ単位のグラウンディング制御は、Googleの検索インデックスとAI回答生成パイプラインの内部で「どのページをどの回答の根拠にしたか」を追跡し、個別に除外する必要があるため技術的難易度が高くなります。この技術的な複雑さの違いが、CMAが二段階の発効スケジュールを設定した理由と考えられます。ページ単位の制御が実現すれば、有料記事の本文だけを保護しリード文は開放するといった、より柔軟な運用が可能になります。
Q7. 日本新聞協会の声明はどのような法的根拠に基づいていますか?
独占禁止法が禁じる「優越的地位の濫用」規制を根拠に、GoogleのAI検索での無断利用を問題視しています。
声明の論理は次の通りです。権利者がAI検索での利用を拒否したくても、クロール制御が通常検索とAI検索で同一であるため、事実上「拒否すれば通常検索からも排除される」という不利益を受け入れない限り選択できません。取引上の地位が優越する事業者が、その地位を利用して相手方に不利益を与える行為を規制する独禁法の枠組みに、この構造が該当しうるというのが新聞協会の主張です。声明はCMAの2026年1月の決定を明示的に引用し、日本でも同種の枠組みを求める形で著作権法改正と知的財産保護の原則コード整備を国に要請しています。
Q8. パブリッシャーはCMAの措置をどう活用すべきですか?
単独の制御手段としてではなく、Googleとの交渉材料として活用するのが本質的な使い方です。
CMA自身が今回の介入を「パブリッシャーの交渉力強化」と位置づけている通り、オプトアウト権の価値はコンテンツを守ること単体ではなく、それを背景にライセンス料や利用条件を交渉できる立場を得られる点にあります。無償利用を止められる立場を持つこと自体が交渉上のカードになります。したがって事業者は、法制度の完成を待つのではなく、自社コンテンツの引用実態やAI経由の流入貢献度を今のうちに数値で把握し、将来の交渉に備えたデータを蓄積しておくことが実務的に重要です。
Q9. 英国以外でCMAに類似した規制の動きはありますか?
EUのデジタル市場法(DMA)がプラットフォーム事業者に行為義務を課す点で類似の枠組みを持ちますが、AI検索固有の措置を明示的には定めていません。
DMAはEU域内の「ゲートキーパー」指定事業者を対象とする制度であり、CMAのDMCC法とは適用範囲や指定基準が異なります。ただしCMAが切り開いた「AI機能からのコンテンツ・オプトアウト」という概念が、今後のDMA運用実務や改正論議に影響を与える可能性は否定できません。Googleにとって地域ごとに異なる実装を維持するコストは高く、複数地域で同種の規制が積み重なれば、グローバル共通仕様への収斂が起こりやすくなります。日本の事業者としては、英国だけでなくEU側の動向も併せて注視する価値があります。
関連用語
関連記事
参考文献
- Google must allow publishers to opt out of AI search results under new CMA rules
- CMA Orders Google AI Search Opt-Out for Publishers
- UK Competition and Markets Authorities (CMA) orders Google to allow publishers to opt out of AI summaries
- AIと検索/英国CMAが提案するGoogle検索への措置パッケージ
- Google のAI検索を拒否できる? 英国CMAが提示した「パブリッシャー保護」の新ルール案
- Google AI検索に日本新聞協会が「優越的地位の濫用」声明──RAG時代のオプトアウトを問う
- AI検索サービスに関する声明
- GoogleのAI検索に新聞協会声明 「記事収集」拒める仕組みを
- Google、生成AI検索への露出を制御する新オプトアウト機能をSearch Consoleで試験提供 まず英国の一部サイトから
関連用語
- インデックス
インデックスとは、クローラーが集めたページをGoogleがデータベースに登録すること。インデックスされて初めて検索結果に表示される対象になります。「索引」とイメージすると分かりやすい用語です。
- llms.txt
llms.txtとは、サイト運営者がAIクローラーに「このサイトの重要な情報はここ」と伝えるためのMarkdownファイルの提案。2024年9月にJeremy Howard氏が提唱し、急速に普及しつつある新しい標準です。
- クエリ
クエリとは、ユーザーが実際に検索窓に入力した検索語のこと。SEOで使う「キーワード」と似ていますが、キーワードが事前に狙う言葉、クエリが実際に打たれた言葉、というニュアンスの違いがあります。
- グラウンディング
グラウンディングとは、LLMの回答を信頼できる外部情報源(Web・社内文書)に「接地」させて、ハルシネーション(嘘)を防ぐ仕組み。RAGはグラウンディングの代表的な実装方法です。
- クローラー
クローラーとは、Web上のページを自動巡回してデータを集めるプログラムのこと。Googleの「Googlebot」が代表例で、これに見つけてもらわないと検索結果に表示されません。
- ゼロクリック検索
ゼロクリック検索とは、ユーザーが検索結果ページ上で答えを得て、どのサイトもクリックせずに離脱する検索行動。フィーチャードスニペット・AI Overview の普及で2024年以降急増しています。
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