AISEO/LLMO分析
ChatGPT Search開放で従来検索が9.4%減、20週後17.0%減 — ボッコーニ大の自然実験 (llmo-news-20260715-bocconi-chatgpt-search-substitution-study)
AI検索最終更新日: 2026年8月3日初出: 2026年7月15日

ChatGPT Search開放で従来検索が9.4%減、20週後17.0%減 — ボッコーニ大の自然実験

ボッコーニ大学が2026年7月8日にarXiv公開した研究が、ChatGPT Searchのアクセス拡大で従来検索が9.4%減(20週後17.0%減)、ChatGPTの送客率はわずか5.2%であることをComscoreクリックストリームで実証。自然実験による識別戦略と業種別インパクトを解説します。

#LLMO#AI検索#ChatGPT#調査データ#ゼロクリック#送客#GEO#AEO#パブリッシャー#検索トラフィック
目次(51項目)

ChatGPT Search開放で従来検索が9.4%減、20週後17.0%減 — ボッコーニ大の自然実験が示した「答えるが送らない」ウェブ

要点: ボッコーニ大学の研究チームが2026年7月8日、Comscoreの米国デスクトップ・クリックストリームを用いた研究をarXivで公開しました。ChatGPT Searchが新たに使えるようになった世帯では従来検索クエリが即座に9.4%減り、20週後には17.0%減に達します。一方でChatGPTが外部サイトへ送客するのは会話セッションのわずか5.2%(Googleは31.1%)で、利用世帯の74.4%は10か月間で一度も送客していません。

最終更新日: 2026年7月15日

何が起きたのか

2026年7月8日、ボッコーニ大学(ミラノ)の Qiaoni Shi、Kai Zhu、Kai Gu の3氏が、arXiv の Computers and Society カテゴリに「Answering Without Referring: How AI Search Rewrites the Web's Economic Bargain(参照せずに答える:AI検索はウェブの経済的取引をどう書き換えるか)」と題したプレプリントを公開しました。7月13日には Search Engine Journal と PPC Land が相次いでこれを報じ、業界内で急速に共有が広がっています。

この研究が注目される理由は単純です。「AI検索が従来検索を食っているのか」という問いに対して、これまで公開されてきたのはほぼすべてが相関データでした。トラフィックが減った、AI経由の参照が増えた、という前後比較や横断調査です。本研究は、OpenAI 側のプロダクト提供タイミングを外生的なショックとして扱うことで、この問いに「因果に近い」推定を与えた点で質的に異なります。Search Engine Journal および PPC Land の報道に基づき、内容を整理します。

研究の設計

データソースは Comscore のデスクトップ・クリックストリーム記録です。米国の45,000世帯超を対象とし、期間は2024年10月から2025年7月までの約10か月。観測されたのは ChatGPT 利用が56,578件、Google クエリが291,747件にのぼります。パネル形式で同一世帯の行動を継続追跡しているため、「誰が、いつ、どのサービスで、何を検索し、その後どこへ遷移したか」がセッション単位で追える構造になっています。

識別戦略の核となるのが、OpenAI が ChatGPT Search のアクセスを段階的に拡大した3つの日程です。2024年10月31日、2024年12月16日、2025年2月5日。この3時点で、それまで ChatGPT Search を使えなかった層が新たに使えるようになりました。研究チームはこの「新たに利用可能になった世帯」を処置群とし、ChatGPT も Claude も使っていない世帯を対照群として、両者の検索行動の推移を比較しています。差分の差分法(Difference-in-Differences)の発想を、プロダクト提供タイミングという外生的イベントに適用した自然実験です。

送客率 5.2% 対 31.1%

最も直接的に「答えるが送らない」を示すのが送客率の差です。ChatGPT の会話セッションのうち、外部サイトへのクリックが発生したのは 5.2%。対して Google では検索クエリの 31.1% で外部サイトへの遷移が起きています。約6倍の開きです。

さらに衝撃的なのが世帯レベルの分布です。ChatGPT を利用した世帯の 74.4% が、10か月間を通じて外部サイトへの送客をただの一度も発生させていません。Google の同じ指標は 9.6% です。つまり ChatGPT ユーザーの4人に3人は、ChatGPT を「ウェブへの入口」としてまったく使っておらず、完結する回答装置として使っているということになります。ゼロクリック化は AI Overviews によって進んだ現象として語られがちですが、ChatGPT に関してはゼロクリックが例外ではなく標準状態であることをこのデータは示しています。ゼロクリックの概念整理はゼロクリック(用語集)AI時代のゼロクリック対策で扱っています。

検索の代替 9.4% → 17.0%

アクセス拡大が起きた直後、処置群の従来検索クエリは 9.4% 減少しました。そしてこの減少は一時的なものではなく、時間とともに拡大します。20週後には 17.0% 減。導入直後の物珍しさによる一過性のシフトではなく、習慣が定着していく形の代替であることを示唆します。

対照的に、既に ChatGPT を使っていたユーザー層(=アクセス拡大の影響が相対的に小さい層)では、減少幅は平均 4.9%、20週後で 8.2% にとどまりました。新規に「検索能力を持った ChatGPT」を手に入れた層のほうが、行動変容が大きいという整合的な結果です。ChatGPT Search(用語集)の機能拡大がユーザーの検索習慣そのものを置き換えている構図が読み取れます。

カテゴリ別の偏り

そして本研究で実務上もっとも重要なのが、代替が均等に起きていないという点です。減少幅をカテゴリ別に分解すると次のようになります。

  • 学術研究: 32.8% 減
  • リファレンス(辞書・事典類): 26.5% 減
  • 開発者リソース: 15.1% 減
  • ニュース: 13.4% 減
  • 取引系・娯楽系のクエリ: ほとんど変化なし

「調べて理解する」種類のクエリが大きく削られ、「買う・予約する・観る」種類のクエリはほぼ無傷です。この非対称性が、後述する業種別インパクトの分岐点になります。

加えて収益構造との関係も示されています。広告収益に依存するサイトは、Google と比べて ChatGPT からの送客シェアが 27.6 ポイント低い。ChatGPT が実際に送客する先はリファレンス/知識プラットフォーム、学術・開発者リソース、SaaS ツールやサブスクリプションサービス、非営利サイトに偏っており、Google が送客する YouTube・Reddit・Wikipedia といった大手・人気の目的地とは分布が異なります。

クローラー制御についても興味深い数字が出ています。追跡対象ドメインの 79% が AI クローラーをブロックしていました。ところがブロックしているドメインのほうが、ChatGPT からの送客数はむしろ多かった(6.48 対 4.48)。この一見矛盾する結果の解釈は、後段のFAQで詳述します。

この研究がなぜ重要なのか — 方法論の読み解き

相関調査との決定的な違い

これまで LLMO 界隈で流通してきた「AI検索でトラフィックが減った」系のデータは、ほぼすべてが以下のいずれかの形式でした。

  1. 前後比較: AI Overviews 導入前後で自社の CTR がこう変わった
  2. 横断比較: AI Overviews が出るクエリと出ないクエリで CTR を比べた
  3. 自己申告: ユーザーアンケートで「AI検索を使うようになりましたか」を聞いた

いずれも重大な交絡を抱えます。前後比較は季節性やアルゴリズム更新と区別がつきません。横断比較は「AI Overviews が出やすいクエリ」自体が情報探索型に偏っているという選択バイアスを持ちます。自己申告は回答者の記憶と自己認識に依存します。

本研究の識別戦略が優れているのは、処置の割当がユーザー側の意思ではない点です。2024年10月31日、12月16日、2025年2月5日という3日程で ChatGPT Search が誰に開放されるかは、OpenAI のロールアウト計画によって決まります。ユーザーが「検索をやめたいから ChatGPT Search を使い始めた」のではなく、「たまたまその日に使えるようになった」わけです。この外生性があるからこそ、開放直後に処置群だけで検索クエリが落ちるという観測を、逆因果(検索に不満だから AI に移った)や自己選択(もともと AI 好きな人が移った)で説明しにくくなります。

さらに対照群として「ChatGPT も Claude も使っていない世帯」を置くことで、同時期に全世帯に共通して起きた変化(季節性、Google 側のアルゴリズム更新、AI Overviews の展開など)を差し引けます。処置群と対照群の差の、開放前後での差 — これが差分の差分法の骨格です。9.4% という数字は、この二重の差分として推定されたものと見られます。

20週追跡が持つ意味

因果推定として重要なもう一つの要素が、効果の時間推移です。9.4% → 17.0% という拡大トレンドは、以下の対抗仮説を弱めます。

  • 新奇性効果仮説: 「新しいおもちゃで遊んでいるだけ、すぐ戻る」→ 20週かけて拡大しているので棄却方向
  • 一時的ショック仮説: 「開放日に何か別のイベントがあった」→ 単発ショックなら減衰するはずが、しない

行動変容が時間とともに深まるパターンは、習慣の置き換えが起きていることの傍証です。ユーザーは検索窓を開くという反射を、チャット窓を開くという反射に少しずつ書き換えている、と見られます。

Comscore クリックストリームの強み

パネルデータの強みは、セッション内の遷移が見えることです。GA4 のようなサイト側の計測では、自サイトに来たトラフィックしか見えません。「ChatGPT を使ったが、どこにも行かずに終えた」というセッションはサイト側からは原理的に観測不能です。74.4% がゼロ送客という数字は、ユーザー端末側からの観測でしか出せません。AI経由の参照をサイト側で捉える手法はAI参照トラフィックのGA4計測設定にまとめていますが、そこで見えるのはあくまで「送客された5.2%」の内側です。

また同一世帯を10か月追い続けるため、「ChatGPT を使い始めた人が、Google をどれだけ使わなくなったか」を個人内で比較できます。人が違えばもともとの検索量も違いますが、同じ世帯の前後を見れば、その個人差はキャンセルされます。

限界 — デスクトップのみ・米国のみ

一方で、限界も明確です。著者自身がこれを但し書きとして明記しています。

第一に、デスクトップのみ。日本を含む多くの市場で検索の過半はモバイルです。モバイルにおける ChatGPT アプリの使われ方(音声入力、カメラ入力、通知経由)はデスクトップと大きく異なる可能性があり、送客率も代替率も別の数字になり得ます。この空白は本研究では埋まりません。

第二に、米国のみ。ChatGPT の普及率、Google のシェア、そして言語ごとの回答品質はいずれも市場によって違います。日本語圏では ChatGPT の引用元分布が英語圏と異なることが別途示されており(ChatGPTとPerplexityの引用元重複は11%参照)、代替の強さも同じとは限りません。

第三に、収益データがない。クリックストリームはクリックを記録しますが、売上は記録しません。「トラフィックが13.4%減ったニュースサイトの収益がどうなったか」は本研究の射程外です。著者は「パブリッシャー収益への影響には結論は及ばない」と明言しています。

第四に、これは価値判断ではない。著者は本研究を「米国デスクトップ行動における観測された routing パターンの記述」と位置づけ、ChatGPT が有用かどうかについての評価ではないと繰り返しています。ユーザーにとって ChatGPT が検索より便利だからこそ代替が起きているのであり、その効用は本研究の測定対象外です。

背景と経緯

ゼロクリックはAI以前から進んでいた

「検索したのにサイトに行かない」現象自体は AI 検索の発明ではありません。Google は2010年代を通じて、ナレッジパネル、強調スニペット、天気・為替・計算機、ローカルパック、動画カルーセルと、SERP 上で答えを完結させる要素を増やし続けてきました。パブリッシャー側の「Google に答えを盗まれている」という不満は10年来のものです。

そこに2024年以降の AI Overviews、そして AI Mode が乗りました。AI Overview(用語集)は検索結果の最上部に生成回答を置く仕組みで、1位表示のクリック率が大きく落ちることが複数の調査で示されています(AI Overview で1位のCTRが58%減)。ただしこれらは「Google の中で完結する」話でした。

「答えるが送らない」— 取引の書き換え

本研究のタイトルにある「ウェブの経済的取引(the Web's Economic Bargain)」という表現が、問題の本質を捉えています。ウェブの暗黙の取引はこうでした。

制作者はコンテンツを無料で公開し、クローラーにインデックスを許す。その見返りに検索エンジンがトラフィックを送る。制作者はそのトラフィックを広告や商品で収益化する。

Google はこの取引の当事者でした。31.1% のクエリで外部に送客するということは、取引を(不完全ながら)履行しているということです。ChatGPT の 5.2% は、この取引がほぼ成立していないことを意味します。コンテンツは学習・参照され、回答は生成され、ユーザーは満足し、制作者には何も返らない。「Answering Without Referring」とはそういう状態の名前です。

クローラーブロックとライセンス交渉

この非対称に対する制作者側の反応が、AI クローラーのブロックとライセンス交渉です。本研究で追跡ドメインの79%がブロックしていたという数字は、この動きが既に多数派になっていることを示します。クローラー(用語集)robots.txt(用語集)の基礎はそれぞれ用語集にまとめています。

さらに2026年に入り、インフラ層での制御が本格化しました。Cloudflare は2026年7月1日、AIトラフィックを Search/Agent/Training の3分類で個別に許可・ブロックできる機能を全プランに開放しています(Cloudflareの3分類制御)。「学習には使わせないが、検索での引用は歓迎する」という細かい意思表示が技術的に可能になったわけです。本研究が扱った2024年10月〜2025年7月の期間には、まだこの粒度の制御は存在しませんでした。

一方で、llms.txtのような自主的な提示規格の実効性については議論が続いています(llms.txtは必要か不要か)。ブロックするか、開くか、条件付きで開くか — 79%という数字の裏で、各社の判断はまだ揺れています。

国内外の反応

Search Engine Journal の受け止め

Search Engine Journal は7月13日、「ChatGPT Access Tied To 9% Drop In Traditional Search」の見出しで報じました。同誌は9.4%という数字よりも、カテゴリ別の非対称性と、20週後に17.0%まで拡大する時間推移を重く扱っています。SEO 実務者向けメディアとして、「全体で9%」という平均値は自社に当てはめても意味がなく、自社のクエリがどのカテゴリに属するかで受ける影響がまったく違う、という読み方を提示している点が実務的です。

PPC Land の受け止め

PPC Land は同日、「Wider ChatGPT Search access cuts traditional search 9.4%, study finds」として報じました。広告業界メディアらしく、広告収益依存サイトの送客シェアが Google 比 27.6 ポイント低いという点、そして取引系クエリがほぼ無傷であるという点に焦点を当てています。検索連動広告のインベントリという観点では、「金になるクエリ」はまだ Google に残っている、という読みです。

パブリッシャー側の懸念

パブリッシャー、とりわけニュースメディアにとって、13.4%減という数字は既に体感と一致するものとして受け止められています。ニュースは代替率で見れば学術研究(32.8%)やリファレンス(26.5%)ほど激しくありません。しかし問題は収益構造との掛け算です。ニュースメディアの多くは広告収益依存であり、その広告収益依存サイトこそが ChatGPT から27.6ポイント分の送客シェアを失っている層です。減少率が中程度でも、失われた分の代替経路が存在しないという二重苦になります。

学術研究32.8%・リファレンス26.5%という上位2カテゴリは、Wikipedia や辞書サイトなど、そもそも広告依存度が相対的に低いか、非営利で運営されているものが多く含まれます。皮肉なことに、最も大きく代替されているカテゴリと、最も収益ダメージを受けるカテゴリは一致しません。ダメージが集中するのは「そこそこ代替され、かつ広告に依存している」中間層 — つまり一般的な情報系メディアです。

著者自身の但し書き

公平を期すため、著者の留保も正直に紹介します。研究チームは本論文について、米国デスクトップ行動における観測された routing パターンの記述であり、ChatGPT の有用性についての価値判断ではないと明記しています。モバイル、国際市場、パブリッシャー収益への影響については結論を出していません。

そのうえで著者は、中心的な未解決問題を「コンテンツ制作者が投資を維持できるか」と位置づけています。制作者がコンテンツへの投資をやめれば、AI が参照すべき一次情報そのものが枯れます。これは AI 企業にとっても長期的には自傷行為です。本研究は誰が悪いという告発ではなく、この共有された持続可能性の問題を数字で可視化したもの、という自己規定になっています。

aiseo-llmo.com ユーザーへの影響

ここからが実務です。平均9.4%という数字を自社に当てはめてはいけません。この研究の価値はカテゴリ別の分解にあり、あなたのサイトが受ける影響はどのカテゴリのクエリで流入しているかでほぼ決まります。

情報系メディア(ハウツー・解説・比較)— 直撃圏

リファレンス26.5%減、学術研究32.8%減の圏内にあるのが、「〇〇とは」「〇〇 やり方」「〇〇 意味」といった純粋な情報探索型クエリで流入している記事群です。これらは ChatGPT が最も得意とし、かつ送客する必要が最も薄い種類の質問です。ユーザーは答えが欲しいのであってサイトが欲しいのではありません。

読み替え: 「定義」「一覧」「手順の一般論」で構成された記事は、中期的にオーガニック流入が二桁減する前提で事業計画を組み直してください。同時に、これらの記事を捨てるのではなく、引用される側に回る設計に変えます。ChatGPT が送客する先はリファレンス/知識プラットフォームに偏っている、というのが本研究の観測です。つまり「引用に値する構造化された知識の塊」であれば、5.2%の狭い門は開きます。AI検索最適化の完全ガイドで扱っている引用獲得の設計が、そのまま生存戦略になります。

BtoB SaaS — 相対的に有利

本研究が示す ChatGPT の送客先傾向のなかに「SaaS ツール・サブスクリプションサービス」が明示的に含まれています。これは重要な非対称です。ChatGPT は「〇〇を管理するツールを教えて」に対しては、具体的なプロダクトへのリンクを出す傾向がある、と読めます。

読み替え: BtoB SaaS にとって AI 検索は敵ではなく新しい流入源です。しかも量は少なくても質は高い可能性があります(AI検索経由のCVRはSEO比4倍)。やるべきは、プロダクトの機能・料金・対応範囲・比較優位が、AI から見て曖昧さなく取り出せる状態にすることです。曖昧な「業界No.1」ではなく、「対応データソース: 32種類」「最小プラン: 月額9,800円/5ユーザー」のような確定的な事実の記述が引用可能性を上げます。

EC・取引系 — ほぼ無傷、ただし油断は禁物

取引系クエリの減少はほとんど観測されませんでした。「買う」意思が固まったユーザーは、依然として検索を経由しています。理由は明白で、ChatGPT は(少なくとも観測期間においては)在庫・価格・配送を確定させる能力を持たなかったからです。

読み替え: 短期的には安全圏です。ただしこの安全は「AI が取引を扱えない」という技術的制約に依存した安全であり、エージェント型コマースが成熟すれば消えます。安全なうちに、商品データの構造化と、ブランド指名検索の育成に投資するのが合理的です。

ニュースメディア — 減少率は中位、ダメージは最大

前述の通り、13.4%減という中位の代替率と、広告依存27.6ポイント差の掛け算が最悪の組み合わせを作ります。

読み替え: 一般ニュースの速報転載で流入を取るモデルは、AI 検索に対して構造的に弱い立場です。ChatGPT にとって速報の要約は最も簡単な仕事であり、送客する動機が最も薄い領域です。生き残る軸は「AI が代替できない一次情報」— 独自取材、現場写真、当事者インタビュー、独自集計データ。そしてこれらは引用される際にブランド名が出やすい種類のコンテンツでもあります(ブランドメンション(用語集))。

技術ドキュメント運営 — 15.1%減だが、送客先には入っている

開発者リソースは15.1%減。同時に ChatGPT の送客先傾向のなかに「開発者リソース」が明示されています。減ってはいるが、送客されてもいる、という両義的な位置です。

読み替え: 開発者は ChatGPT に聞いて解決すれば公式ドキュメントを開きません。しかし解決しなかった場合、あるいは正確な仕様を確認する必要がある場合は開きます。つまり ChatGPT は「一次情報への最短経路」として機能しており、公式ドキュメントの権威性はむしろ強化される方向です。やるべきは、バージョン明記、変更履歴の明示、コード例の完全性 — AI が参照するときに間違えにくい記述です。

広告収益モデル27.6ポイント差の意味

この数字は「AI 検索時代における収益モデルの適性」を示すランキングだと読むべきです。

  • 広告依存モデル: 送客量に収益が直結し、その送客量が最も削られる。最も不適
  • サブスク/SaaS モデル: 送客量は少なくても、送客された1人の価値が高い。適性あり
  • EC モデル: 取引系クエリが無傷なため、当面の影響は軽微
  • 非営利/知識プラットフォーム: そもそも送客で収益化していないため、影響が構造的に小さい

自社が広告依存モデルにいる場合、この研究が突きつけているのは「LLMO を頑張れば元に戻る」ではなく「収益モデル自体の再設計が要る」という話です。

今すぐできる対応策

1. GA4 で AI 参照を分離計測するセグメントを組む

「送客される5.2%」の内側を見るためには、まず AI からの流入を分離できていなければ話が始まりません。GA4 の探索レポートで、参照元に AI サービスのドメインを含むセグメントを作成します。

対象に含めるべき参照元ドメインの例:

chatgpt.com
chat.openai.com
perplexity.ai
www.perplexity.ai
claude.ai
copilot.microsoft.com
gemini.google.com

GA4 の管理画面で、これらをまとめて扱うには「カスタムチャネルグループ」を作るのが実務的です。「AI Search」というチャネルを新設し、条件に「参照元が上記ドメインのいずれかに一致」を設定します。これで既存の Organic Search と分離した状態で、期間比較・LP別・CVR別に見られるようになります。詳細な手順はAI参照トラフィックのGA4計測設定に整理しています。

重要な注意: この計測で見えるのは送客された分だけです。本研究が示した「74.4%はゼロ送客」の部分は、原理的にGA4では見えません。計測値が小さいことを「影響が小さい」と読み違えないでください。

2. カテゴリ別に自社流入を分解して、減少予測を立てる

平均9.4%ではなく、自社のクエリ構成に本研究のカテゴリ別係数を当てて減少を見積もります。Search Console のクエリを、おおよそ以下に振り分けてください。

  • 情報探索型(〜とは、意味、一覧、比較)→ リファレンス係数 26.5% を目安に
  • 技術・仕様確認型 → 開発者リソース係数 15.1%
  • 時事・速報型 → ニュース係数 13.4%
  • 購買・予約・申込型 → ほぼ変化なし

この重み付き平均が、自社にとっての「9.4%」です。情報探索型が流入の8割を占めるメディアなら、平均値よりはるかに大きい打撃を想定すべきです。ただしこの係数はあくまで米国デスクトップの観測値であり、日本市場・モバイルでは異なる可能性が高いと見られます。あくまで感度分析の出発点として使ってください。

3. robots.txt を「意思のある設計」に書き換える

79%がブロックしているという状況で、思考停止の全ブロックも思考停止の全開放も、どちらも最適ではありません。学習は拒否するが検索での参照は許可する、という意思を明示します。

# 検索・引用のためのクロールは許可
User-agent: OAI-SearchBot
Allow: /

User-agent: PerplexityBot
Allow: /

# 学習用のクロールは拒否
User-agent: GPTBot
Disallow: /

User-agent: CCBot
Disallow: /

User-agent: Google-Extended
Disallow: /

# 有料・会員限定領域は全AIに対して拒否
User-agent: *
Disallow: /members/
Disallow: /premium/

Sitemap: https://example.com/sitemap.xml

OpenAI は検索用の OAI-SearchBot と学習用の GPTBot を分けています。この区別を使わずに GPTBot だけをブロックして満足していると、学習は防げても検索での引用まで一緒に失う設定になっている場合があります。逆に OAI-SearchBot を許可しているつもりで User-agent: *Disallow: / に飲まれているケースも実際によくあります。robots.txt(用語集)で優先順位のルールを確認してください。

4. llms.txt で「引用してほしい塊」を提示する

ブロック/許可の二値だけでなく、「ここを読め」という積極的な提示も用意します。

# Example Media

> 日本のAI検索最適化(LLMO)に関する調査・解説メディア。
> 一次調査データと実務手順を公開しています。

## 主要ガイド

- [LLMO完全ガイド](https://example.com/articles/llmo-complete-guide): LLMOの定義・手法・計測を網羅した基礎資料
- [AI検索最適化ガイド](https://example.com/articles/ai-search-optimization-guide): 引用獲得の実装手順

## 用語集

- [LLMO](https://example.com/glossary/llmo): 大規模言語モデル最適化の定義
- [ゼロクリック](https://example.com/glossary/zero-click): 検索結果内で完結する行動の定義

## 引用時のお願い

- 出典表記: Example Media(https://example.com)
- 数値を引用する際は調査時点を併記してください

llms.txt の実効性については各社の対応が確定しておらず、これを置いたから引用が増えるという保証はありません(llms.txtは必要か不要か)。コストが極小である一方でアップサイドがある、という期待値計算で導入するのが妥当です。

5. 構造化データで「引用されうる事実」を機械可読にする

ChatGPT が送客する先はリファレンス/知識プラットフォームに偏る、という本研究の観測を逆手に取ります。自社のコンテンツを「知識の塊」として機械可読にします。

{
  "@context": "https://schema.org",
  "@type": "Article",
  "headline": "ChatGPT Search開放で従来検索が9.4%減",
  "datePublished": "2026-07-15",
  "dateModified": "2026-07-15",
  "author": {
    "@type": "Organization",
    "name": "Example Media",
    "url": "https://example.com"
  },
  "publisher": {
    "@type": "Organization",
    "name": "Example Media"
  },
  "citation": {
    "@type": "ScholarlyArticle",
    "name": "Answering Without Referring: How AI Search Rewrites the Web's Economic Bargain",
    "author": ["Qiaoni Shi", "Kai Zhu", "Kai Gu"],
    "datePublished": "2026-07-08"
  },
  "mainEntity": {
    "@type": "Dataset",
    "name": "ChatGPT送客率と検索代替率",
    "variableMeasured": [
      {
        "@type": "PropertyValue",
        "name": "ChatGPT送客率",
        "value": "5.2",
        "unitText": "PERCENT"
      },
      {
        "@type": "PropertyValue",
        "name": "従来検索の減少率(20週後)",
        "value": "17.0",
        "unitText": "PERCENT"
      }
    ]
  }
}

ポイントは citationmainEntity です。一次資料への参照を明示し、自社が提示している数値を PropertyValue として構造化することで、「この数字はこのサイトが出典」という結びつきを機械が辿れる形にします。グラウンディング(用語集)の観点でも、モデルが根拠を確認しやすい状態は引用可能性を上げます。

6. 「送客されない前提」でブランド想起と指名検索を設計する

これが本研究から導かれる最も重要な戦略転換です。74.4%がゼロ送客ということは、送客をKPIに置き続ける限り負け続けるということです。KPIを組み替えます。

具体的には次の3段構えです。

第一に、引用時のブランド露出を最大化する。 ChatGPT が回答内で情報源に言及するとき、「ある調査によると」ではなく「Example Media の調査によると」と書かせる設計です。そのためには、コンテンツ内で「本メディアの独自集計では」といった主体を明示する記述を使い、数値と組織名を同じ文で結びつけます。名前のない情報は名前なしで引用されます。

第二に、指名検索の育成を主KPIに昇格させる。 ChatGPT で「Example Media の調査」という名前を見たユーザーが、後日 Google で「Example Media」と検索する — この経路は送客率5.2%の外側にあります。Search Console のブランドクエリ表示回数を、オーガニック流入と並ぶ主要指標として週次で追ってください。AI検索での露出が増えているのに送客が増えない場合でも、指名検索が伸びていればLLMOは機能しています。

第三に、直接流入の受け皿を作る。 メールニュースレター、コミュニティ、アプリ、ブックマークされる価値のあるツール。検索エンジンにも AI にも依存しない接点です。強いドメインほど AI に参照されやすいという傾向は別途示されており(AI参照とドメインの強さ)、直接的な読者基盤はドメイン権威の源泉でもあります。

7. 一次情報の生産に予算を移す

本研究が「代替されなかった」と示したのは取引系・娯楽系だけです。しかし論理的に、もうひとつ代替されえない領域があります。モデルの学習データにもウェブにも存在しない情報です。独自調査、実測、当事者取材、社内データの公開。これらは ChatGPT が答えを持っていないため、参照するしかありません。

情報探索型記事の量産に配分していた予算を、年数本の本気の調査に移すのは、この研究の含意に対する合理的な応答です。皮肉なことに、AI に引用されるための最良の方法は、AI が真似できないものを作ることです。LLMO完全ガイドで扱っている E-E-A-T の Experience(経験)の重みは、この文脈でさらに増します。

今後の見通し

モバイル・国際市場のデータ空白

本研究の最大の空白がここです。日本の検索の大半はモバイルであり、ChatGPT アプリの使われ方はデスクトップのブラウザ利用とは異なります。音声で聞いて音声で答えが返る使い方において、送客率は5.2%よりさらに低くなる可能性が高いと見られます。一方で、モバイルではそもそも Google 検索からのクリックも「読むのが面倒」という理由で発生しにくく、代替の余地が小さかった可能性もあります。どちらに振れるかは、同種の識別戦略をモバイルパネルに適用した研究が出るまで分かりません。

国際市場については、ChatGPT の検索ボリュームは Google の12%程度という水準感が別途報告されています。米国で9.4%の代替が起きる普及水準と、日本の普及水準は異なります。日本市場では現時点で代替率はより小さく、しかし今後の普及に伴って米国の軌跡を追う、というのが最も蓋然性の高いシナリオと見られます。

収益データの欠落

「トラフィックが13.4%減った」と「収益が13.4%減った」は違います。減ったトラフィックが低品質なもの(すぐ離脱する、広告を見ない、買わない)であれば、収益減はもっと小さいはずです。逆に、AI が代替したのが「じっくり読んで比較する」ユーザーだった場合、収益減はトラフィック減より大きくなります。

実は AI 経由の流入は CVR が高いという報告があり(AI検索経由のCVRはSEO比4倍)、「量は減るが質は上がる」というシナリオも成立しえます。ただしこれは送客された5.2%の中の話であり、失われた94.8%を補うほどの質の向上があるかは別問題です。この掛け算を検証するには、クリックストリームとパブリッシャー側の収益データを突合する研究が必要で、そのデータ提供に応じるパブリッシャーが現れるかが鍵になります。

ライセンス経済への移行

79%がブロックし、しかしブロックしても引用は起きている — この状況は長続きしません。方向としては、無償クロールの黙認から、明示的なライセンス契約への移行が進むと見られます。既に大手パブリッシャーと AI 各社の間では個別契約が結ばれており、Cloudflare のような中間層が「支払わなければ通さない」インフラを整備しつつあります(Cloudflareの3分類制御)。

問題は、この経済に参加できるのが交渉力を持つ大手だけだという点です。個人ブログや中小メディアにライセンス料は流れません。トラフィックという「誰でも受け取れた対価」が、ライセンス料という「大手だけが受け取れる対価」に置き換わるなら、ウェブの多様性は縮みます。AI経由の参照シェアが特定サービスに偏りつつある構造(AI参照シェアの変化)も、この集中を加速する方向に働きます。

中心問題 — 制作者は投資を維持できるか

著者が最後に置いた問いに戻ります。ChatGPT が学術研究のクエリを32.8%代替できるのは、学術情報がウェブ上に存在するからです。リファレンスを26.5%代替できるのは、誰かが辞書を作ったからです。参照元が枯れれば、AI の回答品質も枯れます。

これは AI 企業とコンテンツ制作者の対立というより、共有された持続可能性の問題です。短期的には AI 企業が得をし、中長期的には全員が損をする構造。この構造が認識されて是正されるのか、それとも一次情報の生産が細ってから気づくのか。本研究は答えを出していませんが、問いを数字で立てました。

実務者としてできることは、この構造の中で「代替されない側」に自社を置き続けることです。取引を扱う、一次情報を作る、名前で想起される。この3つのいずれかを持たないコンテンツは、5.2%の門の外に留まり続けます。

よくある質問

Q1. 79%がAIクローラーをブロックしているのに、ブロックしているドメインのほうが送客が多い(6.48対4.48)のはなぜですか?

因果関係ではなく、交絡による見かけ上の関係である可能性が高いと見られます。

素直に読むと「ブロックすると送客が増える」という奇妙な結論になりますが、これは第三の変数を考えると解けます。AIクローラーをブロックするという判断ができるのは、専任の技術者がいて、コンテンツに価値があり、その価値を守る意思決定ができる組織 — つまり大手・高権威ドメインです。一方で、そうした大手・高権威ドメインは、ブロックしていようがいまいが、AIの回答で引用され言及される頻度が高い。ドメインの権威という共通要因が、「ブロックする」と「引用される」の両方を引き上げている、という構図です。

さらに実装上の理由もあります。robots.txt でのブロックは学習用クローラーに効いても、検索時にリアルタイムで取得する動作や、既に学習済みの知識からの言及は止められません。「ブロックしたのに引用される」は技術的に普通に起こります。いずれにせよ、この6.48対4.48という数字を「ブロックすれば送客が増える」と読むのは誤りです。

Q2. 9.4%という数字を、日本の自社サイトにそのまま当てはめていいですか?

当てはめてはいけません。米国・デスクトップ・2024〜2025年という三重の限定がついた数字です。

第一に、これはユーザーの検索行動の減少率であって、特定サイトのトラフィック減少率ではありません。第二に、日本市場のChatGPT普及率は米国と異なり、代替の総量も異なります。第三に、デスクトップ限定です。日本の検索の主戦場はモバイルであり、そこでの挙動は本研究の射程外です。

使い方としては、絶対値ではなくカテゴリ別の相対関係(学術32.8% > リファレンス26.5% > 開発者15.1% > ニュース13.4% > 取引ほぼ0%)を、自社のクエリ構成に対する感度分析の重みとして使うのが妥当です。「うちは情報探索型が8割だから、平均より大きく効く」という相対的な判断には十分使えます。

Q3. ChatGPTの送客率5.2%は、今後上がりますか?

確定的なことは言えませんが、構造的には上がりにくいと見られます。

送客はChatGPTにとってユーザー体験の敗北です。回答内で完結できなかったから外に送る、という位置づけである以上、モデルの能力が上がるほど送客の必要性は減ります。OpenAI が送客率を上げるインセンティブを持つとすれば、それはパブリッシャーとの関係維持や規制対応といった、プロダクト外の理由です。

ただし例外領域があります。取引の実行(購入・予約)、リアルタイム情報の確認、一次資料の検証。これらはモデルが賢くなっても外部に依存せざるを得ません。実際、本研究でChatGPTの送客先にSaaSツールやサブスクサービスが含まれているのは、この「実行が必要な領域」の反映と見られます。全体の送客率が上がらなくても、実行を伴う領域の送客は増える可能性があります。

Q4. 取引系クエリが無傷なら、ECサイトは何もしなくていいですか?

当面は安全ですが、その安全は技術的制約に依存した一時的なものです。

観測期間(2024年10月〜2025年7月)において、ChatGPTは在庫を確認できず、価格を確定できず、決済を実行できませんでした。だから取引系クエリはGoogleに残った。この制約は原理的なものではなく、実装の問題です。エージェント型コマースが整備されれば、この安全地帯は消えます。

やるべきことは明確です。第一に、商品情報の構造化(価格・在庫・配送・返品条件を機械可読に)。第二に、ブランド指名検索の育成 — AI が商品カテゴリで比較するとき、名前を知られているブランドが候補に入りやすくなります。第三に、AI エージェント経由のアクセスを計測できる状態にしておくこと。安全なうちに準備するのが、この研究の最も実務的な含意です。

Q5. GA4でAI流入を計測していますが、数字がとても小さいです。影響が小さいということですか?

逆です。GA4で見えるのは送客された5.2%の内側だけで、失われた94.8%は原理的に見えません。

サイト側の計測ツールは、自サイトに来た人しか観測できません。ChatGPTで質問して満足して終わったユーザーは、あなたのGA4には一切現れません。つまり「AI流入が少ない」という観測は、「AIの影響が小さい」の証拠ではなく、「AIが送客していない」の証拠です。まさに本研究が74.4%のゼロ送客世帯として捉えたものと同じ現象を、逆側から見ているだけです。

正しい読み方は、AI流入の絶対値ではなく、(1) 情報探索型クエリのオーガニック流入の推移、(2) 指名検索の表示回数の推移、(3) AI流入のCVR、この3つを組み合わせて見ることです。オーガニックが減り指名検索が増えているなら、AIに引用されて名前が広まっている良い状態と読めます。

Q6. なぜ学術研究(32.8%)とリファレンス(26.5%)だけ突出して減っているのですか?

この2カテゴリが、ChatGPTにとって最も得意で、かつ送客する必要が最も薄い領域だからです。

学術・リファレンス系のクエリは、(1) 答えが確定的で議論の余地が少ない、(2) 既に大量のテキストとして学習データに含まれている、(3) ユーザーが求めているのは「答え」でありサイト体験ではない、という3条件を満たします。「フランス革命は何年か」に対してChatGPTは即答でき、Wikipediaに送る理由がありません。

一方でニュース(13.4%)の減少が中位に留まるのは、鮮度が必要で学習済み知識では答えられないケースが多く、リアルタイム取得が要るからです。取引系がほぼ無傷なのは、実行能力がないからです。つまりこの順位は、「モデルが単体で完結できる度合い」のランキングそのものです。自社のクエリがこの軸のどこにあるかを考えれば、将来の代替リスクを推定できます。

Q7. この研究は「ChatGPTが悪い」と言っているのですか?

言っていません。著者は明確に価値判断を避けています。

著者は本研究を「米国デスクトップ行動における観測された routing パターンの記述」と位置づけ、ChatGPTの有用性についての評価ではないと明記しています。むしろ代替が起きている事実は、ユーザーにとってChatGPTのほうが便利だという需要側の評価の反映です。ユーザーが不便なものに移行することはありません。

著者が問題として立てているのは、善悪ではなく持続可能性です。「コンテンツ制作者が投資を維持できるか」— 参照される情報を誰かが作らなければ、AIの回答品質そのものが劣化します。これはAI企業にとっても長期的な自傷になります。告発ではなく、共有された課題の可視化、という自己規定です。実務者としても、感情的な対立軸ではなく構造の問題として捉えるほうが、有効な対策にたどり着けます。

Q8. 20週後に17.0%まで拡大するということは、1年後には30%を超えますか?

外挿すべきではありません。データが存在する範囲は20週までです。

9.4%から17.0%への拡大は観測された事実ですが、この曲線が線形に伸び続ける保証はどこにもありません。習慣の置き換えは通常、飽和点を持ちます。ChatGPTで済む種類のクエリがすべてChatGPTに移り切った時点で、代替は止まるはずです。取引系がほぼ無傷であることが示すように、移らないクエリは移りません。

したがって最も蓋然性が高いのは、S字カーブ的に伸びて、カテゴリごとの「移行可能な上限」に漸近するシナリオと見られます。ただしこの上限自体が、ChatGPTの機能拡張(取引実行、リアルタイム性の向上)によって押し上げられる可能性があります。つまり「今のChatGPTの能力なら飽和する、しかし能力が上がれば新しい飽和点に向けて再び動き出す」という階段状の推移が想定されます。1年後の数字を今のデータから当てるのは不可能です。

Q9. 広告収益依存サイトの27.6ポイント差は、何を意味していますか?

ChatGPTは、広告で食っているサイトを構造的に避けている、という観測です。

ChatGPTがGoogleと比べて、広告収益依存サイトへの送客シェアが27.6ポイント低いということは、送客先の分布が明確に別物だということです。ChatGPTが送るのはリファレンス/知識プラットフォーム、学術・開発者リソース、SaaS、非営利。Googleが送るのはYouTube、Reddit、Wikipediaといった大手・人気の目的地です。

これが意図的なポリシーなのか、「広告だらけのページは回答の根拠として質が低い」という学習の結果なのかは、本研究からは分かりません。ただ実務的な含意は同じです。広告収益をトラフィックで得るモデルは、AI検索から最も遠い位置にあります。広告依存度が高いメディアは、LLMOの技術的施策より先に、収益モデルの再設計を検討すべき段階に来ています。

Q10. まず何から手を付けるべきですか?

自社流入のカテゴリ分解です。技術的施策より先に、これをやってください。

理由は、打ち手が流入構成によって180度変わるからです。情報探索型が8割のメディアなら、収益モデルの見直しを含む戦略転換が要ります。取引系が中心のECなら、当面は安全なので準備に時間をかけられます。BtoB SaaSなら、AI検索はむしろ追い風なので攻めるべきです。同じ「LLMO対策」という言葉で、やることが全然違います。

手順としては、(1) Search Consoleのクエリを情報探索型/技術確認型/時事型/取引型に振り分ける、(2) 本研究のカテゴリ別係数を重みとして掛けて自社の予想代替率を出す、(3) その数字が事業計画に与える影響を試算する、(4) そこで初めて robots.txt や構造化データの技術的施策に入る。この順です。LLMO完全ガイドの全体像と併せて、自社の立ち位置を確定させてから動いてください。

関連記事

参考文献

  1. ChatGPT Access Tied To 9% Drop In Traditional SearchSearch Engine Journal(参照: 2026-07-15)
  2. Wider ChatGPT Search access cuts traditional search 9.4%, study findsPPC Land(参照: 2026-07-15)
  3. Answering Without Referring: How AI Search Rewrites the Web's Economic BargainarXiv (Bocconi University)(参照: 2026-07-15)

関連用語

  • E-E-A-T

    E-E-A-Tとは、Googleがコンテンツ品質を評価する4つの観点「Experience(経験)・Expertise(専門性)・Authoritativeness(権威性)・Trustworthiness(信頼性)」のこと。SEOとLLMO両方で最重要の概念です。

  • インデックス

    インデックスとは、クローラーが集めたページをGoogleがデータベースに登録すること。インデックスされて初めて検索結果に表示される対象になります。「索引」とイメージすると分かりやすい用語です。

  • llms.txt

    llms.txtとは、サイト運営者がAIクローラーに「このサイトの重要な情報はここ」と伝えるためのMarkdownファイルの提案。2024年9月にJeremy Howard氏が提唱し、急速に普及しつつある新しい標準です。

  • クエリ

    クエリとは、ユーザーが実際に検索窓に入力した検索語のこと。SEOで使う「キーワード」と似ていますが、キーワードが事前に狙う言葉、クエリが実際に打たれた言葉、というニュアンスの違いがあります。

  • グラウンディング

    グラウンディングとは、LLMの回答を信頼できる外部情報源(Web・社内文書)に「接地」させて、ハルシネーション(嘘)を防ぐ仕組み。RAGはグラウンディングの代表的な実装方法です。

  • クローラー

    クローラーとは、Web上のページを自動巡回してデータを集めるプログラムのこと。Googleの「Googlebot」が代表例で、これに見つけてもらわないと検索結果に表示されません。

関連記事

最新記事

LLMモニタリングツールおすすめ7選|2026年7月最新の料金で比較検討 (llm-monitoring-tools-comparison-2026)
ツール比較基礎2026/06/07

LLMモニタリングツールおすすめ7選|2026年7月最新の料金で比較検討

LLMモニタリングツールのおすすめを用途別・予算別にランキングで結論提示。Profound・Otterly AI・Peec AI等を2026年7月最新料金で比較検討し、無料で足りる範囲と有料化すべき閾値まで解説する。

#LLMモニタリングツール#LLMモニタリングツール おすすめ#モニタリングツール比較検討#AI回答引用
YouTube SEO 完全ガイド 2026 年版|雑学ショートから学べる検索流入の作り方 (youtube-seo-2026-japan-complete-guide)
SEO基礎2026/05/23

YouTube SEO 完全ガイド 2026 年版|雑学ショートから学べる検索流入の作り方

YouTube SEO の本質を 2026 年のアルゴリズムと AI 検索の文脈で再整理。雑学ショート動画運営者でも実践できる KW 選定・タイトル・サムネ・視聴維持率・Shorts と LLMO 引用の関係まで網羅した日本語ピラーガイド。

#YouTube SEO#YouTube アルゴリズム#YouTube Shorts#雑学チャンネル
YouTube 収益化 完全ガイド【2026 年版】6 つの収益モデルと月収目安の現実 (youtube-monetization-complete-guide-2026)
ツール比較基礎2026/05/17

YouTube 収益化 完全ガイド【2026 年版】6 つの収益モデルと月収目安の現実

YouTube 収益化を 2026 年時点の全 6 モデル(広告・Shorts・メンバーシップ・スパチャ・アフィリエイト・スポンサー)で体系化。YPP 条件・ジャンル別 RPM・月収目安まで、収益化までの最短ロードマップを解説。

#YouTube収益化#YPP#YouTubeパートナープログラム#RPM
YouTube LLMO完全ガイド|aiseo YouTubeをAIに引用させる9章の実践手順【2026年版】 (youtube-seo-llmo-complete-guide)
LLMO基礎2026/05/10

YouTube LLMO完全ガイド|aiseo YouTubeをAIに引用させる9章の実践手順【2026年版】

YouTube LLMOとは何かを40字で直答し、字幕・概要欄・VideoObject・チャンネル権威性の4施策とaiseoの無料AI可視性診断手順を9章で解説。aiseo youtubeで検索した人が今日から着手できる実践ガイド。

#YouTube SEO#LLMO#aiseo#AI検索
動画 SEO 完全ガイド 2026|YouTube・Google・AI 検索の三軸最適化 (video-seo-complete-guide-2026)
ツール比較基礎2026/05/10

動画 SEO 完全ガイド 2026|YouTube・Google・AI 検索の三軸最適化

動画 SEO を YouTube・Google 検索・AI 検索の三軸で網羅。VideoObject スキーマ・字幕・動画サイトマップ・計測ツールまで25,000字で解説する2026年版決定ガイド。

#動画SEO#VideoObject#YouTube#AI検索
無料キーワード調査ツール完全比較 12 選【2026 年版・トラフィック獲得用ハブ】 (free-keyword-tools-master-comparison-2026)
ツール比較基礎2026/05/09

無料キーワード調査ツール完全比較 12 選【2026 年版・トラフィック獲得用ハブ】

無料で使えるキーワード調査ツール 12 選を徹底比較。サジェスト精度・検索ボリューム精度・日本語対応を 3 軸で評価し、個人ブロガーから BtoB SaaS まで用途別の最強組み合わせを解説します。

#無料キーワードツール#キーワード調査#比較#2026

AI検索 カテゴリの他の記事